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2007年度 ロースクール「独占禁止法」期末試験

2008122日実施)

 Y(日本遊戯銃協同組合)は、エアソフトガンとそれに利用するBB弾の製造業者のほとんどすべてを組合員とし、製品の安全等を目的として自主基準を定めていた。Xは同組合に加入していないアウトサイダーであり、前記の自主基準を上回る威力を持つエアソフトガンを製造・販売し、売り上げを伸ばした。

そこでYは、販売業者の団体に対し、Xの製品を販売した販売業者には組合員の製品の出荷を停止すると警告し、相当数の販売業者がこれに従ってXの製品の販売を中止した。

Xは、Yに対し独禁法違反を理由として民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。(判決はX勝訴)

【設問】

(1)Xは、Yの行為が独禁法のどの規定に違反すると主張したか。また、その理由付けも述べよ。(ヒント: Yは事業者ではなく、事業者団体であるが、組合員の共同行為と見ることもできるケースである)(配点30点)

(2)Yは、どのように抗弁したか。根拠となる条文とその文言をあげ(条文上の根拠がない場合は、その旨も)、それに当たるとする理由も述べなさい。なお、Xの製造・販売したエアソフトガンとBB弾は、その威力等からも、武器等製造法における「銃砲」、「銃砲弾」、火薬類取締法における「火薬類」、あるいは銃砲刀剣類所持等取締法における「銃砲」には当たらず、自由に製造・販売できるものだった。(配点30点)

(3)本ケースについては、本件自主基準の定める規制基準の具体的な合理性、その遵守状況、また、実効性を確保するための具体的手段によって、結論が異なってくるとも考えられる。これらの点についての諸君の意見を述べなさい。(配点40点)

<出題の趣旨>

本問は、日本遊戯銃協同組合事件=東京地判平成949の事案を簡略化し、逆に武器等製造法など公的規制の点では補充して作成したものである。

 原告の主張、それに対する被告の抗弁、そして解答者自身の意見と、明確と分けて書くことが求められる。

不当な取引制限、事業者団体規制、不公正な取引方法の一般指定各号のどれに該当するか、不当性の意味、さらに独禁法と公的規制の関係など、広い範囲にまたがる可能性のある事案である。解答時間80分では短かったかもしれない。

<全体的講評>

(1)については、Xの主張であるから、考えられる限りの多くの選択肢を提示すべき。

例えば、下記のa-1だけ書いて満足している答案があるが、これでは不十分。

(2)も同様で、仮にYの弁護士になったら、どれだけ抗弁を豊富に出せるかを考えて欲しい。

 独占禁止法1条の目的に反するから違法、あるいは逆に法目的に合致するから合法という短絡的な解答もあったが、法目的をどの具体的な要件と突き合わせ、どう読み込むかが腕の見せ所である。

 基本的な知識を問う問題なので、素点で80点以上を取った答案がある一方、8割近くは素点で40点以下であったことは残念。

<成績評価の基準>

(1)  配点30点

行為主体を「事業者」と見るか、「事業者団体」と見るかで適用条文が異なること、もちろん要件も異なることを踏まえて書いているかどうかが、1つのポイント。

Xの主張であるから、考えられる限りの多くの選択肢を提示すべき。

例えば、下記のa-1だけ、あるいはa-2bだけを書いて満足している答案があるが、これでは不十分。

a-1. 組合員(=事業者)の共同行為と見れば、26項該当(=不当な取引制限)で3条前段違反(5)

a-2. 事業者による不公正な取引方法の一般指定12号該当で、19条違反(5)

b. 事業者団体の行為と見れば、811(5)または5号違反(5)

c. 競争の実質的制限に当たるかどうか。これは主として、エアソフトガン製造販売市場におけるYの地位、及び、Xの新商品をめぐる競争状況に拠る。

 判決は、815号違反であるが、これは損害賠償訴訟であるため、競争の実質的制限を立証しなくても、より軽い公正競争阻害性(ここでは競争減殺)を立証できれば十分であったため(Xの主張もそうなのであろう)。

 共同ボイコットは、かなりの市場力ある事業者が共同で行わないと実効性がないのであるから、おそらく競争の実質的制限に当たるケースであろう。

d. 組合員の共同行為という実態を持つか、それとも、事業者団体の行為という実態を持つかは、問題文からは分からない。少数の事業者が一致団結して共同ボイコットをしたのであれば、前者であり、多くの意見の異なる事業者を団体の決議でまとめたという実態があれば後者の適用が妥当。

(2)  配点30点

a.   26項なら、「公共の利益」に反しない(10点)

b.    811号なら、「公共の利益」という用語はないが、独禁法1条の趣旨から、26項と同様に「公共の利益」があるとみなして、同号の要件(競争の事業質的制限)に該当しない、または違法性がないと解するという可能性もある(10点)。

本判決は、「公共の利益に反して」の要件のない独禁法8条・2条9項に関する事案において、最高裁判決(石油カルテル刑事事件=最判昭和59224の解釈を拡大して実質的に取り込んだという理解も可能である。

c.      8115号なら、一般指定12号の解釈として、「正当な理由」があると解する10点)

これらに共通する実質的な理由としては、以下の3点。

a.    自主基準の目的が安全確保であって、独禁法ないし競争政策の観点から是認しうるものであること。

b.    基準の内容が合理的であること。

c.    実施方法が目的達成のために相当であること。

(3)配点40点

本件判決は、安全確保の目的は是認しうるし、基準の内容も一応合理的だが、実施方法が相当でないとして、本件における取引拒絶の指示を815号違反と判示した。

本問題では、これらの事実関係は書かれていないから、「仮に、事実がこうであれば---- 」という形で、事実を仮定して答えるべき。

a. 上記の、3つの実質的な理由のa.について(安全確保の目的であること。20点)。

「なお書き」で書かれている公的規制に触れるものではなかった、ということは、自主基準の内容が合理的ではなかったことを推定させる1つの材料にはなる。

しかし、独禁法の解釈の際に、公的規制のことは1つの判断材料に過ぎず、決定的な事実ではない。

実際に、本件では、これらの公的規制では安全性確保に不十分であったという事情があったようであり、だからこそ、判決も、安全確保の目的は是認しうるし、基準の内容も一応合理的と判示したのであろう。

余談:私見であるが、自主基準に委ねているという点で警察庁の責任が問われるべき(立法、またはその施行規則において、より厳重な基準を立てて、厳しく運用すべきであった)。

b. 基準の内容(10点)

  安全確保のための必要最小限の基準であって、そのことについて一定の客観性を確保できるものであるか否か。

c. 上記のc.について(20点)

c-1. その遵守状況が、まさに当該目的を達成するために、当該基準が厳格に行われており、その一環として、Xに対し、遵守を求めたのであれば、「正当な理由」があるとする条件を1つクリアしたことになる。

c-2. 具体的手段として共同ボイコットという強力な手段を執ったことは、公取の事業者団体ガイドラインでは、それ自体で「正当な理由」なしと解する。(第二、7,(2)ア----「強制することは、一般的に独占禁止法上問題となるおそれがある」)。

 これを支持する説もあり、逆に、代替的手段がなければ共同ボイコットもやむなし、とする説もある。

 少なくとも、手段として、「構成事業者の任意の判断に委ね」、それでは実効性がないと判断される場合にのみ、共同ボイコットという強力な手段が許容されると書くべきであろう。


2006年度 ロースクール「独占禁止法」期末試験(2007123日実施)

以下の事実について、下記の設問に答えなさい。

 日本油脂(株)ほか5社(以下、「6社」という)は、ダイナマイト等の爆薬を製造する事業者であり、その販売合計数量はわが国における総販売数量のほとんどすべてを占めている。

 6社は、共同出資会社(「四国アンホ」)を設立し、四国地方における爆薬の販売を行わせることとした。6社は、その製造した爆薬をすべて四国アンホに販売し、四国アンホは、6社にのみ爆薬を販売し、6社はそれを需要者に売ることとされた。さらに、四国アンホ設立の際の協定において、四国アンホの6社に対する販売価格は、6社との協議の上、決定することとされた。

6社 → 四国アンホ → 6社 → 需要者

<設問>

1.この共同出資会社(「四国アンホ」)設立は、独占禁止法101項に違反するか。あるいは、これは同法3条後段(不当な取引制限の禁止)に違反するのか。(配点60点)

2.独占禁止法101項違反と同法3条後段違反では、違反行為に対する制裁(排除措置命令・課徴金・刑罰・私訴における同法の援用)で差異があるか。(配点40点)

 

<出題の趣旨>

本問は、日本油脂ほか5名事件=公取委・勧告審決昭和501211日(昭和50年勧告第31号、第32号)の事案を簡略化して作成したものである。本事案は、共同出資会社の設立経緯について公取委の介入があったこと、四国における大手の需要者であった日鉄鉱業が自家製造を企画したことへの対応という目的もあったこと、さらに共同生産も含まれている等の複雑な事情があり、10条違反(あるいはその脱法行為として17条違反)もあり得たともいえる微妙な事件である。

しかし、本問では、これらの事情を割愛し、6社がほとんどすべての爆薬を製造し(実際には他に一社、有力な事業者がいた)、また共同販売だけを行うというように変えたので、3条違反だけと構成することが容易になっている。すなわち、形式だけ見れば独禁法10条が対象とする「企業結合」に当たるように見えるが、実質を考えれば相互拘束による不当な取引制限とすべきことをどう説明するかがポイントである。

<全体的講評>

1については、私的独占(共同の「支配」、または、日鉄鉱業の「排除」)に当たるとする学説もあるが、不当な取引制限とする以上は、これに触れる必要はない。

不当な取引制限とせずに、私的独占とした解答も少数あった。これには答え方いかんでは、若干の評価をした。

3条か10条かはどちらかであって、1つの結合について両方に該当するということは論理的にあり得ない。本件行為における6社は、「かたい結合」をしたのか、それとも一時的、緩い結合かのどちらかである。本共同出資会社・取引の実態、ねらいなどをも踏まえる必要があり、その点から後者、したがって3条後段違反となるとした答案が多かった(正解)

 その際の解答の仕方として、3条の要件該当性だけ述べても十分としたが、欲を言えば何故10条違反ではないかも書いて欲しかった(両者を比較した答案は少数であった)

2については、授業では刑罰について、89条以下、95条は説明したが、10条違反の場合の91条の規定には触れなかった。そこで、試験の際に、「89条と95条の間の条文をよく読んで答えてください」と注意したので、91条をあげた答案が多かった(正解)

<採点のポイント>

本問は、日本油脂ほか5名事件=公取委・勧告審決昭和501211日(昭和50年勧告第31号、第32号)の事案を簡略化して作成したものである。本件については、事案が錯綜していることもあり、以下のように多くの研究がある。

来生 新「(独禁法判審決研究)日本油脂株式会社ほか5名に対する件」公正取引31821頁以下、宮坂富之助・独禁法百選(3)34頁以下(1984)、小原喜雄・昭和51年度重要判例解説230頁以下(1977年)、杉浦市郎・独禁法百選(4)50頁以下(1991)、岡田外司博・独禁法百選(5)50頁以下(1997)

沢田克己・独禁法百選(6版)46頁以下(2002)等。

本事案は、共同出資会社の設立経緯について公取委の介入があったこと、四国における大手の需要者であった日鉄鉱業が自家製造を企画したことへの対応という目的もあったこと、さらに共同生産も含まれている等の複雑な事情があり、10条違反(あるいはその脱法行為として17条違反)もあり得たともいえる微妙な事件である。

しかし、本問題では、これらの事情を割愛し、6社がほとんどすべての爆薬を製造し(実際には他に一社、有力な事業者がいた)、また共同販売だけを行うというように変えたので、3条違反だけと構成することが容易になっている。以上のように、問題1の出題の趣旨は、独禁法10条が対象とする「企業結合」に当たるのか、それとも、相互拘束による不当な取引制限とすべきか、という点にある。

1.第一に、本件共同出資会社の設立の場合、出資会社相互の間にも企業結合(=かたい結合)が生じうる。

 第二に、本件は競争関係にある会社間の結合(水平型結合)の事案であるから、6社のシェアから見て、「競争の実質的制限」につながるものである。

以上の2点から、101項に違反する可能性がある(20)

しかし、四国アンホの業務は実質的には商品の再販売だけであり、いわばトンネル会社に近い(20)。売渡価格は、出資者たる6社が決めるから、実質的には価格カルテルである(20)。相互拘束・競争の実質的制限という要件に該当するから、3条後段に違反する(20)。ただし、10条と3条をともに書いた場合は、60点を上限とする。

上を詳しく述べれば、四国アンホは、それ自体の業務は実質的には商品を再販売(転売。しかも買った先に戻して売る)だけであり、いわばトンネル会社に近い。売渡価格は、出資者たる6社が決めるから、実質的には価格カルテルである。このように、いったん四国アンホを通して売ることにしたのは、おそらく価格の低下を防ぐためと推測される。共同出資会社という「かたい結合」の形式はとっているが、実質は6社がカルテルをしっかりやろうとしたからであろう。四国アンホを通せば、6社間でそれぞれの取引が情報流通し、相互にカルテル破りの監視ができるからである。

 したがって、6社はそれぞれ独立した事業者としての取引を行っていて、価格の相互監視のために一旦四国アンホを通すことにしただけであるから、独禁法26項の相互拘束、「競争の実質的制限」の要件を満たし、3条後段に違反する。

なお、ここでの「一定の取引分野」は、本件行為が四国だけについて行われていることから、四国だけである。設問におけるシェアについての記述からわが国の爆薬製造以上全体という答案があったが、具体的な行為から「一定の取引分野」を認定するべきである。

 3条か10条かはどちらかであって、1つの結合について両方に該当するということは論理的にあり得ない。この行為は、かたい結合か、それとも一時的、緩い結合かのどちらかである。

 なお、設立だけでは不当な取引制限には当たらないという解答が少数あった。しかし、不当な取引制限は、それが実施される前であっても、相互拘束がなされた時点で市場支配力は形成されているのであって競争の実質的制限に当たるとするのが通説・判例(石油価格カルテル刑事事件=最判昭和5922)であるから、この解答は誤りである。

 これは10条についても同様であり、設立しただけでは、「競争を実質的に制限することとなる」に当たらないという答案があったが、「こととなる」の解釈から、3条の場合よりも、より容易に設立だけで該当とし得る。また、実質的に見ても、競争制限の効果が出てから始めて規制するのでは、規制の実効性がないことも明白である。

 また、101項のうちで、「不公正な取引方法により」という要件にふれた答案が少数あった。しかし、これに該当するとした事例はこれまでなく、重要性はないと言い切っていいと授業でも指摘した。本件も競争の実質的制限が問題になる事案であるから、不公正な取引方法に当たるか否かを論じる意味はない。

2.(1)排除措置命令は、カルテルにすると協定の破棄しかできないという説もある。「共同販売機関の解体を命じるためには、共同行為概念を拡大し、出資行為を共同行為の一部として把握する必要がある」(杉浦・前掲)。

実際に、本件では共同出資会社の解体(株式の譲渡等)は命じられていず、これへの批判も多くなされている。

しかし、71項と17条の2第1項はいずれも、「違反する行為を排除するために必要な措置を命じることができる」と規定するから、共同出資会社の解体も命じることもできると解され、この点で差異はない。(10)

 排除措置命令がとれる、とするだけの解答なら5点。

(2)課徴金は、3条違反とした場合のみ課される(7条の21)(10)

(3)刑罰は、3条違反の場合は3年以下の懲役又は300万円の罰金(8911)3条違反の場合は、1年以下の懲役又は200万円の罰金 (911)であり、前者の方が重いという差がある。(10)

 いずれの場合も刑罰が科されるとするだけの解答は5点とする。

 また、3条違反の場合は未遂の場合も罰則がかかるが(892項)、ここまで触れることは要求していない。

(4)私訴における同法の援用のうち、民法上の不法行為による損害賠償請求その他ついて差異はない。(10)

なお、第一に、25条は3条違反を挙げるが、10条は挙げていない。しかし、この点は授業では触れていず、また実際上の意味もあまりない(25条は無過失責任を規定するが、民法709条でもこの点で有利になることは実際上はないから)。そこでこの点に触れなくてもよいとする。

第二に、無効の主張(抗弁)ができるかは場合によるという学説が有力であるが、この点は授業では触れていず、かなり難解な問題がある。これも採点の対象とはしない。

                                                                                         以 上